2009年08月03日

タルホ彗星の日 プロローグ

タルホ彗星の日



人は一生に一日だけ不思議な日を体験するという。

すべてが始まって終わる日。

今年の夏、その日が始まった・・・

2009年08月05日

タルホ彗星とは

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タルホ彗星とは

タルホ彗星は1900年12月26日に発見され、最後に目撃されたのが1977年10月25日といわれる。

楕円軌道を約77年の周期で回り、自転周期は1001秒とされる。

彗星出現時には南天にタルホ座流星群と呼ばれる放射状の流星が見られる。

ただし、その発光スペクトルは著しく偏向しているため、現実世界で見ることは非常に困難であるといわれる。

2009年08月20日

金星台天文館

6月の都会の夜

ほうき星のような火花を撒き散らしながら

路面電車が諏訪山公園の前を通り過ぎると

残された静寂の中に

一人の老人が手招きしていた

「閉館まではまだ時間があるよ

今日は夏至の日じゃから、宇宙の秘密を

君に特別に教えてあげよう」

ハートの日光写真

夏の初めの天気の良い日にカーテンを開けて日の光を浴びると

いつも胸のあたりにうっすらと浮かぶイメージがあって

もう何年も何十年も経ったのかもわからないが

夏休み前の学校の廊下で笑っていた君の笑顔とか

プールで泳いでいた君の逆光線の水しぶきとか

かすかに心の中の日光写真のように

シルエットだけ残っている

たぶんあの頃心の印画紙に最初に

飛び込んできた光だったのかもしれない

人は最初に見た光でその後のほとんどの事が

決まってしまうのかもしれない

何十年も経って最後はやがてみんな影だけになるのだろうけれど

7月の日時計

「この金星台天文館の時計はセシウム原子の振動を基準に動いておる

だから決して狂わない時計なんじゃよ。

でもね、実は原子自体も遅くなったり速くなったりして振動しておる

ただ人間にはそれが感じられないというだけじゃ

『人間は時計が正確に動いてると思い込んでいる』

とでもいうべきかな」


「じゃあ本当の時間はどこに有るんですか?」


「中庭の日時計を見てごらん

7月の日時計は一年で一番ゆっくり動く

これは間違いない」


「でも日時計の進み方をどうやって測ったんですか?」


「ははっつ、君は良いところに気が付いたなあ

日時計の進み方を別の時計で測ったんじゃよ

わしの懐中時計でね

ほれ、この懐中時計の鎖を引っ張ってごらん」


「げげっつ、体とつながっている!」


「そうじゃ、わしの心臓とつながっておるんじゃ

ドキドキする時間は速く過ぎ去り

退屈な時は遅く流れる

これが宇宙で一番正確な時計じゃよ


おっつ、腹時計が鳴っておる

そろそろ飯の時間じゃ」

彗星のかけら

「マスター、なんで外にグラスが並べてあるの?」

「六月の夜、今日あたりタルホ彗星が来る頃ですよ
彗星がガチャンと三日月にぶつかって
レモン色の月のかけらが降ってくる
それをグラスに受け止めてカクテルを作るんですよ」

「彗星が今晩来るってよくわかったね」

「ほらFMラジオにノイズが入りだしたでしょ
彗星が近づいてきたしるしなんですよ
10名様限定、特製カクテル名付けて

『天体嗜好症』

チョコレットをつまみながら飲むと
今夜はきっといい夢が見られますよ

彗星が今度来るのは80年後
その時だけしか見れない夢っていうのが
きっとあるんですよ」

天体嗜好症カクテル

天体嗜好症カクテルを飲んだ夜は色んな夢を見た

子犬のジョンを散歩に連れて行ったり

彼女と大丸デパートの屋上でデートしたり

さんご礁の海をダイビングしたり

海の底から見上げた空がきれいだったな

とても幸せな気持ちで目が覚めた


でも、ジョンなんていう子犬は飼ったこともないし
彼女も初めて見る顔だったし
これは誰の夢、誰の記憶なんだろうか
カクテルだから色んな人の夢が混ざり合ってるのかもしれない
彗星というのは人々の記憶が氷になって永久に宇宙をさまよってる
天国のような所なのかな